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仙台高等裁判所 昭和49年(け)1号 決定 1974年7月10日

主文

本件異議の申立を棄却する。

理由

本件異議申立の理由は、被告人名義の「異議申立理由」と題する書面記載のとおりであるから、これをここに引用する。

所論の要旨は、仙台高等裁判所は被告人に対する同庁昭和四九年(う)第八三号道路交通法違反控訴事件につき、同年六月一七日付決定をもって、被告人が裁判所の定めた控訴趣意書を差出すべき最終日までに控訴趣意書を提出しなかったことを理由に同控訴を棄却した。しかし被告人は控訴趣意書差出最終日通知書の送達を受けなかったため、控訴審において控訴趣意書を提出しなければならないことも、またその差出すべき期限がいつまでであるかも知らなかったのであって、右書面を送達することなく、控訴趣意書の不提出を理由に控訴を棄却した原決定は違法として取り消されるべきである、というにある。

よって判断するに、本件控訴事件記録によると、原裁判所は、同事件記録を昭和四九年四月二一日第一審裁判所から受理し、同年五月一五日付をもって控訴趣意書の最終日を同年六月一四日と定めた控訴趣意書差出最終日通知書を被告人に宛て郵便による送達に付したところ、同年五月一七日郡山郵便局配達員村上喜栄作成の郵便送達報告書によれば、同人は右書面を同日一四時〇〇分に受送達者の西内孝道方に赴いて送達しようとしたが、受送達者が不在のため事理を弁護すると認められる同居人Tに交付して送達したが、被告人より右最終日までに控訴趣意書の提出がなかったので、同年六月一七日控訴趣意書の不提出を理由に決定をもって本件控訴を棄却したことが認められる。

ところで、当裁判所の事実取調べの結果によると、被告人とTの住居地の地番は同じ郡山市字山崎二一三番地であるが、Tは二一三番地の土地上に自己の布団販売業の店舗兼居宅のほか二戸の貸店舗のある一棟と七戸の貸家のある五棟(二戸建二棟)の建物を所有し、被告人はその二戸建のうちの一戸をTから賃借し、タクシーの運転手としての自からの収入により妻と二人の生活を立てているもので、両者は住家も別棟で生計も別個であり、近隣に居住する家屋の賃借人という以外に全く関係のないこと、郡山郵便局の配達員はTの借家人が不在の場合、郵便物をT方に配達し、これをその家族から借家人に渡すよう依頼する習わしとなっていたが、本件郵便も同局配達員村上喜栄において前記送達報告書記載の日時に被告人方に赴いて送達しようとしたところ被告人夫婦が不在であったため、Tの妻T′に対し被告人に渡すよう依頼して交付し、その送達報告書は被告人の同居人であるTに補充送達による送達をした旨記載して裁判所に返送したことが認められる。そして右事実によれば、Tおよびその妻が被告人の同居人その他民事訴訟法一七一条一項に定める補充送達の受送達者に当らないことは明らかであって、本件控訴趣意書差出最終日通知書は適法に送達されなかったものといわねばならない。

しかしながら、送達すべき書面が違法に送達されなかったとしても、受送達者が現実にこれを受領してその内容を了知したときは、その時にその送達がなされたと同一の効果が発生するものと解すべきところ、前記本件控訴事件記録および当裁判所の事実取調べの結果によると、控訴裁判所は控訴趣意書差出最終日通知書と被告人に対する弁護人選任に関する照会書(これに対する回答書が同一書面の裏面に印刷されている)を同一日付で作成し、一通の封筒に両書面を同封して郵便による送達に付し、これが前示のとおり郡山郵便局配達員によりT′に昭和四九年五月一七日午後二時配達されたこと、同女は同日午後三時ころまで被告人夫妻の帰宅を待ったが帰えらないので、そのころ留守宅の窓から差入れてこれを被告人方に置いて来たこと、その後被告人から同月二〇日付をもって右同封にかかる弁護人選任照会書につき、弁護人は必要はない旨の回答書が作成され、同月二七日これが裁判所に送付されたことが認められ、以上の事実によれば、被告人は本件控訴趣意書差出最終日通知書を遅くとも同月二〇日までに弁護人選任照会書とともに受領してこれを了知したことが充分推認される。右弁護人選任照会書は受取ったが控訴趣意書差出最終日通知書は知らないとする被告人の当裁判所に対する供述は、前示の事実や裁判所事務官伊藤光次の報告書および前記郵便送達報告書(送達書類として弁護人選任照会書および控訴趣意書差出最終日通知書の記載がある)に照らし措信し難い。

そして必要的弁護事件でない本件において、被告人が右のように控訴趣意書差出最終日通知書を受領しこれを了知したのにかかわらず、その適式に定められた最終日までに控訴趣意書を提出しなかった以上、これを理由に本件控訴が決定で棄却されるのは当然であって、原決定に所論の如き瑕疵はなく、本件異議の申立は理由がない。

よって刑事訴訟法四二八条二項、三項、四二六条一項後段に則り本件異議申立を棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 山田瑞夫 裁判官 野口喜蔵 鈴木健嗣朗)

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